モリマァァァァ…(涙)、ってなる『三味線とオートバイ』

1961年
監督:篠田正浩
出演:桑野みゆき、川津祐介、月丘夢路、森雅之 他

渋谷シネマヴェーラの特集「日本ヌーヴェルヴァーグとは何だったのか」にて。

これは森雅之ファンの息の根を止める映画。控えめに言って最高です。
鑑賞後は酸素が足らず、朦朧とすることでしょう。

軽快な音楽と遊び心あふれるアニメ的なオープニングがとっても楽しい!
その分肝心のクレジットが見づらいのはちょっと残念ですが、こんなワクワクする始まり方は大歓迎。

主役は桑野みゆきと川津祐介の若者=オートバイかと思いきや、話の軸となるのは親世代=三味線。月丘夢路と森雅之の方なのです。
このふたりのメロドラマであり、母娘のホームドラマでもあるのです。原作は川口松太郎なのです。
桑野みゆきと川津祐介のバイク事故も、モリマ&月丘を引き合わせるためのひとつの出来事にすぎない。

桑野みゆきとその母・月丘夢路は二人暮らし。
父は既に亡くなっていて、月丘夢路が小唄の師匠をやって生計を立てている。

事故った桑野みゆきの主治医としてニコニコと登場するモリマ。
桑野みゆきのモノマネして桑野みゆきを触りまくって(厭らしい意味ではない)早速こちらの息の根を止めにかかってきます。あんなに触ってくれるなら私もバイクでどっかに突っ込みたい。
早々に桑野みゆきを下の名前で呼び捨てにしたり、退院後も就職のお世話をしてくれたり何かと親切にしてくれる謎のお医者さんなモリマであったが、実はモリマと月丘夢路は元々は戦争で引き裂かれた恋人同士で、さらに実は…というお話。

しっかりしたお母さんて感じだった月丘夢路はモリマが現れた途端にヨロヨロとよろめいて(笑)娘に先生先生連呼して、よろめきっぷりがわかりやすいんだ。もう少し隠したらどうか。
当然母の異変を察する桑野みゆき。
母、そして始めは良好な関係だったモリマとの間にも、徐々に亀裂が入り始める。

桑野みゆきと一緒に事故った川津祐介はいいとこのおぼっちゃまらしく、小唄の師匠なんかの娘と付き合うなってことで桑野みゆきとは別の病院に移される。
親が感じ悪けりゃ息子も感じが悪い。一見ちゃらんぽらんで責任感のかけらもなさそうで「こんな男はやめておけ」と言いたくなるところですが、根は悪い奴じゃなさそうで憎めないキャラだった。
それにしても出番が少なく、影が薄い。いつも忘れた頃にひょこっと出てきて、オマエはまだいたのか!と何度も思ってしまった。
バイク仲間で菅原文太がチラッと登場。顔小さい&脚が長い。

アンバランスなタイトルのとおり、「三味線」と「オートバイ」は最後まで噛み合わない。母と娘、お互い大事に想い合っているのに、だけどどちらも引けずにうまくいかない。
モリマも月丘夢路も、桑野みゆきに本当のことを言い出せないまま、そしてモリマは二人の前から姿を消す。

モリマの手紙を読み、全てを知った瞬間の静寂。
時と思考が止まったかのような桑野みゆきの一瞬の表情が素晴らしかった。そして泣きながら小唄を歌う母娘と一緒に、私も号泣。こんなに泣くことになるとは思いもしなかった。

映画自体は結局何が言いたいのかわからなかったものの、桑野みゆきが抱く母への複雑な感情には胸が締め付けられた。だけど月丘夢路の気持ちになっても胸が苦しい。どちらの辛さもわかるのです。もちろん、モリマの気持ちになっても…

中盤からは3人に感情移入しっぱなしで、あっという間だった。

終始モリマがニコニコと笑っているというのも、結構な衝撃で。
あらすじはわかってたので、なんというか、もっと苦悩の表情を浮かべているもんだとばっかり。

かっこいい笑顔もかわいい笑顔も、印象に残った笑顔を挙げればキリがない。
どの笑顔も全部最高。モリマが笑うたびにこっちは息の根が止まるかと思った。
こんなにモリマの笑顔が溢れている作品はあまりないのではないですか…

夕焼けでオレンジ色に染まったモリマの横顔も切なくて最高に美しかったです。
小唄も素敵だったんだよなあ。こんな声が出るんだなあって(←これが一番の鑑賞目的でした)

大人で、優しくて、いつも笑顔で受け止めて、無理押しせず、大切な人の幸せのために自ら身を引く。
この上なく最高にかっこいいオジサンだった。モリマトリクスのぐう聖有能ゾーン行き決定である。

 

この映画の封切は1961年の10月。
同じ年の6月、森雅之本人にもこの映画とちょっと似たような出来事がありました。

それが映画の撮影より先だったのか後だったのかはわからない。
モリマがどんな気持ちでこの仕事をしていたのかわからないし、モリマっ子としてその件についてこれ以上探ろうとも思っていません。

同じパターンで、吉永小百合と父娘を演じた『帰郷』

吉永小百合を見つめるモリマの眼、優しいんだよなぁ。
桑野みゆきを見つめる眼も、優しかった。

身を引くと決めて桑野みゆきを見送る時の顔も、脳に焼き付いて離れない。
娘に向ける「お父さん」なモリマの顔は、とっても優しいのだ。

忘れられない、特別な1本になりました。