『指導物語』1941年

 


1941年
監督:熊谷久虎
出演:丸山定夫、原節子、藤田進 他

頑固なベテラン機関士が若い軍人機関員(って言い方でいいのかな)を指導するおはなし。

太平洋戦争開戦2ヶ月前に公開された作品で、これって監督がむちゃくちゃ右巻きの人だそうでプロパガンダと思うと話の流れ的にゾッとするんですけど、鉄道映画としてとても良いと思った。なんせ鉄道省がバックについてるので、蒸気機関車の撮影の仕方なんて鉄道ファンの皆さん大変喜ぶんじゃないかと思います。機関車チェイスのシーンはすごい迫力だよ。DVDになっていないのはもったいない。

支那事変以降若手の指導にもつかせてもらえてない窓際族みたいな機関士が丸山定夫。丸山定夫の三人娘の長女が原節子。母親は亡くなっているので原節様が妹たちのお母さんみたいになってる。そして丸山定夫に指導される若手機関員が藤田進です。
やっと若手の指導をさせてもらえることになった丸山定夫は大張り切りで、藤田進に良い参考書を買ってプレゼントしたり家に招いたりと可愛がる。しかし頑固で怒りっぽく、すぐ「バカ!」って言っちゃうんだけどこの怒り方がどうにもお子ちゃまっぽくて可愛らしい。

母子家庭育ちで苦労した藤田進とは違い、東大出のエリート機関員・草野淳。機関士の教習を受けながら、大学時代の楽しかった思い出が走馬灯のように流れ、朦朧としたあげく作業中に機関車から落下し怪我をする。草野淳の方を指導している藤輪欣司もまた丸山定夫とは対照的なインテリっぽいキャラクター。機関員同士は境遇が違っても仲が良いのに指導員の方は大人気なくケンカしちゃうってのがね(笑)オジサンたち可愛いよ。

そんな指導員ふたりが、出征していく藤田進と草野淳を必死で追いかけて見送るシーンは涙が出た。あれは名シーンじゃないですか?キャラクターは違えど教え子を想う気持ちはふたりとも同じです。なんだかちょっと『陸軍』のラストとかぶって見えたね…

 

この時代に観るからかもしれませんが、話の随所に反戦ではないかという描写が出てきます。藤田進が出征する前夜の腹節様の表情、藤田進のお母さん、教え子を追いかける指導員……
だけど当時映画館で観た人たちはおそらく、同じ場面を見ておそらく私とは違うことを感じたんだろうなと思う。戦争へ向かう覚悟というか、それまでの生活を諦め、悟りを開くというかね…そういう感覚の違いがこの頃の映画を見ていて興味深いところでもあり、そして恐ろしくも感じるわけです。

私はこの作品で動く丸山定夫を初めて見ました。というより、丸山定夫を見てみたくて録画してあったんですけど。
丸山定夫はこの時まだ40歳のはず。それがこの映画では、見た目、しぐさ、声の出し方喋り方、どこからどう見ても定年前の初老です。老け役がうまい人はお芝居うまい、何演ってもうまいというのが私の持論ですが、これを見てもっと他の丸山定夫を見たいと思いました。
昔の演劇雑誌を読んでいると伝説的な感じで丸山定夫の話が出てきたりしますが、こんな人が原爆で亡くなってしまったのだから、そりゃ伝説扱いにもなるわなと納得です。もったいないというか…不幸だったとしか言い様がない。

藤田進は凛々しい顔をすると本当にかっこいいな。藤田進のキュッとした口が好きなんですよね。口角フェチなのかもしれん。
腹節様はいつでも美人。