『人間模様』1949年

 


監督:市川崑
出演:上原謙、山口淑子、月丘千秋、斎藤達夫、伊藤雄之助、東山千栄子 他

異常なまでに博愛主義なイノセントボーイ絹彦さん(上原謙)が周りの人々の調子を狂わせていくおはなし。

絹彦さんの幼馴染でこのままいけば結婚するんじゃないかという相手が月丘千秋、その父親が斎藤達夫、上原謙の友人で社長している嫌な奴が青山五郎、その秘書で大陸から引き揚げてきた美形女子が山口淑子、絹彦さんのオカンが東山千栄子、ヨレヨレボロボロで怪しい伊藤雄之助は山口淑子の元カレ。
青山五郎って誰?と思ったら、どうやら上原謙の義理の弟にあたる人らしい。上原謙の奥様の妹さんの旦那さん、だそうです。主に三原純という名前で活躍していたようですが、今回初めて認識しました。

絹彦さんに恋心を抱く山口淑子と月丘千秋。
山口淑子が美しいのは毎度のことですが、この映画で強く印象に残るのはなんといっても月丘千秋です。可愛いのはもちろんのことですが、とにかくキャラクターが強烈。

月丘千秋は絹彦さんのことがおそらく大好きなんだけど、絹彦さんはいつもぼやっとしてて誰にでも優しい博愛ボーイなので物足りないし、自分ばっかり好きでいるのがちょっと悔しそう。そこへ美人な山口淑子が登場するわけです。絹彦さんは山口淑子に対しても当然優しくて、山口淑子が体調を崩せば献身的に看病もする。で、当然山口淑子は絹彦さんに惹かれていく。月丘千秋は絹彦さんが山口淑子に優しくするのが気に入りません。そりゃそうだ。

気に入らないのは、青山五郎も同じく。青山五郎は絹彦さんとは対象的な存在で、嫌な奴なのかと思いきや実は結構まとも。怪しげな仕事はちゃんと断るし、山口淑子のことは本気で好きで、ちゃんと考えている。

絹彦さんは博愛主義だから、別に山口淑子に対して恋愛感情があってそうしているんじゃないのです。相手が山口淑子じゃなくても、若くなくても美人じゃなくても男でも女でも、おそらく同じことをしたのです。
そう思えば月丘千秋と青山五郎がやきもきすることもないんだけど、実際その立場になってみれば、そういうわけにはいかないよな。

月丘千秋は上原謙の気を引こうと一生懸命で可愛らしい。性格はキツいしやり方もガサツなんだけど、上原謙の破れたナイトキャップをお直しして被せてあげるところなんて胸キュンです。停電してシルエットになる二人も美しかったなぁ……って、ところがしかし上原謙は病的に鈍感なので月丘千秋の気持ちはこれっぽっちも通じない。言うことなすこと全てが空回りで痛々しい。
その後も暴走は続き、青山五郎の秘書に名乗りを上げてみたりヤミ屋の秘書になってみたり、どんどん惨めになって堕ちていく。ラストは月丘千秋ひとりどっか別の世界に飛んでいっちゃいました。

絹彦さんがヤミ屋に一発かました時はすごい衝撃で、おーっとこれは…?って思ったんだけどねえ。

『絹彦の・・・・・・バカーーーーーー!』
ってことで、結局博愛主義で鈍感で間の抜けたイケメンを好きになってしまうとどうなるのかっていうことでいいんですかね…

 

これの上原謙と月丘千秋を観ていると、なんだか別の映画を思い出します。
そうです、黒澤明の『白痴』を思い出すのです。

イノセンスで純粋で邪気がない上原謙は『白痴』の亀田さん(森雅之)であるし、嫌よ嫌よも好きのうちみたいな月丘千秋は綾子(久我美子)である。『白痴』の公開はこの映画の2年後だけど。

じゃあ上原謙が亀田さんをやれたのかというと話は別だし、逆にこの絹彦さんをモリマがやれたのかというとやはり話は別で。
絹彦さんは本当に生まれつきのピュアでそれこそ混じりっけひとつない純粋さで、根っこからのほほんしていてもはや何を考えているのかわからないレベル。この雰囲気は上原謙ならではじゃないかと私は思っていて、ほかに演れる人はちょっと思い当たらない。
亀田さんの方はピュアで純粋ではあるけども、そこには暗い背景があり、心に亀裂がある。可愛くてきれいな目をしているけど、その目には闇も宿しているわけで、ここらはやはり森雅之が演じたからこそだと思うわけです。
パッと見は同じキャラクターだけど、根っこにあるものは違うんですよね。

まあしかしこれの上原謙はなんだか歩き方もピョコピョコしてるしちょっとしたしぐさが可愛くて、とにかく可愛い上原謙を拝みたい方におすすめ。
『東京のえくぼ』とか『めし』とか、ネジ1本ポロッと抜けてる感じの上原謙は本当に良いよね。