「人間蒸発」1967年 日本






1967年
監督:今村昌平
出演:露口茂、早川佳江(一般人)、早川サヨ(一般人)他

突然姿を消した婚約者・大島を探している早川佳江という女性に、俳優・露口茂とカメラが7ヶ月に渡って密着!
大島の家族や職場の同僚、元カノにインタビューを行いながらふたりは大島の姿を追うが…

これはドキュメンタリーですがフィクションです

いや……ドキュメンタリーなんです(混乱)

もちろん台本なしモザイクも音声処理もなしで盗聴盗撮とやりたい放題!今なら人権侵害で訴えられますね。
こんなのよく作ったと思うし、よく公開したなと思う。

ドキュメンタリーですから早川佳江は当然早川佳江本人として出演。婚約者の大島も、実際に行方不明になってしまった人です。
ちなみに佳江さん、今村組からは「ネズミ」というあだ名をつけられている。確かにねずみっぽい顔してる。どこかで田中絹代似って書かれてたのを読みましたが確かに系統は同じかもしれんけど似てはない。

ネズミに密着する露口さんも、露口茂本人として出演してます。ネズミの後見人であり、レポーターでもある。あちこち潜入したり盗聴器を隠し持って撮影に挑んだりとかなり大変な役回り。
黒縁メガネかけて喋り方がセクシー!と思いきやたまにかわいいニット帽かぶったりしてて、これの露口さんはちょっとたまんないっす。

大島の実家や職場を訪ねて聞き込みを重ねるネズミと露口さん。
で、ベタだけどこの大島が実は金遣いが荒くて全然仕事できない人間で、大酒のみで女にだらしがないっていう、非常に残念な人物像が浮かび上がっていく。

途中、キミちゃんという女性が出てくる。
キミちゃんは大島の元カノで、二股かけられた挙句に捨てられてるんだけど、どうやら大島の子どもを身籠っていたとの情報が。
それまで大人しめだったネズミは豹変!容赦なしにガンガン問い詰める。
だけどキミちゃんは身籠り説を頑なに否定。

このシーンもガッツリ盗撮で…キミちゃんは一応目隠し処理されてるけども、今更だけどこれっていいんですかね。当時問題にならなかったのか?
キミちゃんの彼氏も目隠し処理はされてたけど務めてる会社名とかバッチリ出てたし処理の意味がほとんどないじゃん…

次に浮かび上がるのが、ネズミの姉・サヨさん。なんとこのサヨさんが大島の「2号さん」ではないかとの噂が!
露口さんを間に挟んで話し合う姉妹。しかしサヨはしらばっくれる。
ネズミの姉に対する憎しみは深まるばかりで「みんな不潔よ!露口さんも不潔よ!!」とわめきながら大号泣。
露口さん何もしてないのに酷い言われ様。

と、ここまでが前半で。

肝心の大島の行方は全く掴めていません。監督はこれじゃ映画として面白くならないなあと不満顔。ついに公開捜査へ踏み切ることになり、ネズミは露口さんたちと共にワイドショーに出演する。
さあ、ここからがこの映画の本番で、「フィクション」の始まりになるのです。

今村監督、ネズミのある変化に目をつけた。

監督「ネズミさー、もしかして露のこと好きなんじゃね?」←えっ?

露口「僕もそんなような気がするっちゃするんですけどー…」←ぇえ…

つまり、ネズミの婚約者探しに対する情熱が薄れてきてるんではないか、ということ。その原因が、本当にネズミの気持ちが露口さんに傾いてるせいって事になると…この映画の目的は完全に変わってしまうわけですよね。
ってことはこの映画、ここで終わっちゃうんじゃないの?

と、思いきや面白がって「ここを掴まなきゃ!」とノリノリの今村監督。そんな監督の横で、まさかの展開に開いた口が塞がらない露口さん。笑←笑い事じゃない

露口さん自らご本人に確認したところ、案の定大島のことはもうどうでもよくて露さんラブ♡になっていたネズミ。そんなネズミに、露口さんは「人って、自分自身を演出するような部分があると思うんだよね」と諭すものの、どうやらネズミは本気らしい。

というかね。ネズミはワイドショー出演以降は特に、一般人としてではなく、どこか女優のような言い方、振る舞いに変わってきてるんですよ。露口さんと二人で歩くシーンなんてほとんど演技をしているかのようで、とても一般人の出ているドキュメンタリーとは思えない。むしろ薄々わかっちゃいたけどほんとに惚れられちゃった露口さんの方こそドキュメンタリー状態。
平静を装っているように見えてかなり動揺している模様。そりゃそうだ。

なかなか話が進まなかった前半に比べて後半はジェットコースター級の展開。
あなたほんとに一般人なの?と疑いたくなる証言者が現れたり、果ては得体のしれない霊媒師まで登場。そしてやっぱり、姉のサヨは大島と関係を持っていたのではないかという結論へ達する。

ラストは再び露口さんを間に挟み、姉妹で徹底口論。露口さん、相当くたびれてるのか途中遠くを見つめてましたけど大丈夫ですか…

サヨをガンガン攻めるネズミに対し、全てを否定するサヨ。激しい罵り合いで埒が明かない。途中から重要な証言をしたお魚屋さんと監督も参戦。
お魚屋さんは2年前にサヨと大島が一緒に歩いてるところを確かに見たと、ハッキリサヨの目の前で証言するが、それでもサヨは知らんの一点張り。
話が全然進まない。

ネズミ「監督、真実ってなんでしょう…」

監督「わかりません!」

えーーーーー!
ここまでやっといてわかりませんって、そんなアンタ…!

突然「セットを外せ!」とスタッフに指示する監督。
ガタガタと外されていくセットの壁。普通の部屋だと思われていたその場所は、実は撮影所のセットだったのだ。なんだこれは…

表に出て、証言者たちと口論になるネズミたち。
野次馬がぞろぞろ集まりだし、全員一斉に喋りだしてもう誰が何言ってるんだかさっぱりわからないカオスな様子はかなり笑えた。

結局大島は見つからなかったし、サヨと大島の関係も明らかにはならず。
お魚屋さんはブチ切れて帰っちゃうし、完全にとっちらかった状態でこの映画は終わりを迎える。

もうこれは、何と言っていいのか…
結局、人の記憶なんてものは曖昧で、真実を突き止めることなんてできやしないのだと。ちょっとこじつけな感じがするけど、でも実際にこのドキュメンタリーは、ドキュメンタリーとして崩壊している。

おそらく撮影の途中か収拾のつかない状況になってしまったのかなと思うんだけど、でも監督の本当の狙いは最初からネズミ自身の本性にあったんではないかとも…
で、更にしらばっくれな姉が出てきたもんだから俄然楽しくなってきちゃったみたいな。
こうゆう、女の中身晒すみたいなの、今村さん好きでしょ?

次第にカメラを意識し、自分自身を演出し始めたネズミ。
これ見てると、もしかして本当のドキュメンタリー番組なんてないんじゃない?って思っちゃう。
目の前でカメラが回ってれば、皆きっと、ちょっとでも自分を良く見せようって考えちゃうと思うんだよ。私だってそうですよ。
そうなったらもうドキュメンタリーじゃなくて、監督も言ってる「フィクション」になっちゃうもん。

ところでなんで後見人としてわざわざ露口さんを起用したんですかね。まさか最初からネズミを露口さんに傾けさせるのが狙いだった…とか…
だって露口さんみたいな人と7ヶ月もずーっと一緒に行動してたらさ、そりゃあんた、ネズミじゃなくても惚れるって。
しかし露口さんもよくこんな危険な仕事を引き受けたよね。

ラストでも言ってるけど、映画はここで終わるが実生活は終わらない。
露口さんはこれでお役御免になるが、ネズミは一般人なので、実生活の中で山さんを好きになったっていう気持ちはこのあとどうしたんだろうね。
自分も演じている、という上での告白だったならすぐ忘れちゃうだろうけど。