「恋文」1953年 日本

ラブストーリー


1953年
監督:田中絹代
出演:森雅之、久我美子、宇野重吉、道三重三 他

復員後、定職に就かず弟(道三重三)が持ってくる翻訳の仕事をこなしながら弟のヒモのように暮らす礼吉(森雅之)は、誰かを探して街をウロウロする毎日。そんな時に渋谷でばったり再会した旧友(宇野重吉)の「恋文代筆」業を手伝うことになるが…

誰が誰に石を投げられるというのか

自宅で洗濯物を干すという生活感溢れる森雅之で始まるこの映画。
大女優田中絹代の初監督作品で、御祝儀代わりと言わんばかりに当時のトップ俳優たちがカメオ出演でお祭り状態。
ただ、内容は非常に暗い。

舞台は実際に渋谷に存在していた恋文横丁。米兵のオンリーやってた女性を相手に、帰国してしまった米兵宛てに英語で手紙を書いてあげるっていう仕事があったんですね。
で、そこに森雅之がずっと想い続け探し続けてきた幼馴染の久我美子が客としてやってきたからさあ大変…という話。

旦那と死に別れ、戦後米兵のオンリーになっていた久我ちゃんをなじりまくるモリマ。「子どもが死んで目が覚めて良かったんだ」とまで言い出す始末。酷い!
おまえだって復員してからまともな仕事もしないで褒められたもんじゃないのに何様なのかって話ですよ。

やり場のない怒り悲しみを抱えて酔っ払って帰宅。(たぶん)自分でも酷いこと言ったとわかっていつつ、でも言っちゃったし今更謝ることもできない。自分のプライドが許さないから。ずっと一途に久我ちゃんを探してきた俺可哀想!って思ってるからね。
「僕は撤回しませんよーーーーっ!」「僕は許さないッ!」とひとりでクダを巻き、店にやってきたオバサンオンリー絹代にも何様モード全開でお説教。ああ、もうグダグダ…

弟はモリマと久我ちゃんを仲直りさせるために、レストランに就職した久我ちゃんのお祝いをしようと計画する。久我ちゃんは前向きに生きていこうと一生懸命です。が、いつまでもウジウジと意地になってるお子様モリマが「うん」というわけがない。
宇野重に説教されてうーん…と考えた挙句出てきた言葉が「ヤダ!」←コレ。小学生なの?

宇野重に張り倒されてやっと目が覚めたモリマは久我ちゃんに会いに行くが、その頃久我ちゃんは昔のオンリー仲間に絡まれ、モリマの弟にも過去を疑われ、絶望して道路へフラフラ。なんとそのまま車に轢かれてしまいます(車のライトが久我ちゃんの顔にパッパッと当たる演出が最高!)

ラストはハッピーエンドを匂わせつつ、後は観客に委ねる形で幕を閉じる。

最初は代筆業に乗り気じゃなさそうだったモリマも、なんだかんだでオンリーたちとも打ち解けて、彼女たちに一定の理解を示しているようにも見える。でも久我ちゃんのことは、そうゆう風には見れなかった。
ずっと好きで一度は身を引いたものの、戦後も想い続けてずっと探し続けてきた。その間にモリマの中で久我ちゃんは勝手に相当美化されていたはずで、まさか米兵のオンリーになって子どもまで産んでたなんて想像もしていなかったことで、ショックなのはわかる。

でも久我ちゃんだって生きるために必死だったっていうのも、わかるじゃない。
あれだけ言われて謝ることしかできない久我ちゃんもおかしいよ…

ただ、あのシーンのモリマのセリフって非常に複雑というか…元々軍人さんでしょ。
久我ちゃんに対してよりも、心の奥底に閉じ込めてたアメリカに対する憎しみのようなものがチラチラと見えるんですよね。戦後、男性は特に無気力状態に陥った人が多かったようですけど、そんな人たちの心情をこの礼吉って人に投影させたのかな、って思ったり、ね。

そんなナイーブで複雑な男心を持たせたらやっぱり強い森雅之。あれだけの暴言を吐いて「何様だこのクズ!」と思わせつつ「まあわからんでもないけどさ…」と同情も誘わせるあたりはさすがです。
絹代先生は自分のお気に入りイケメン新人を主役にしたかったそうで、ところが成瀬巳喜男かだれかに「何言ってんだおまえ」的なことを言われて結局モリマになったそうで。それで正解でしたね。

モリマの弟を演じた道三重三(←なんて読むんだこれ)、棒読みすぎませんか?
棒なのにセリフが多くて、その上絡むのがモリマ久我宇野重とくればもうお気の毒としか…
これでよく通ったなぁと思ったらやっぱり全然OKじゃなかったみたいで、絹代にダメ出しされまくって途中でスタジオを出てっちゃうこともあったとか、どこかで読みました。

話は暗いものの、香川京子が出てくるとパッと画面が華やいだり、思わぬところにすごい人が出てきてびっくりしたり、渋谷の街中にモリマ放り出してロケしたり相変わらず安西郷子が美人だったり、見ごたえは十分。
現実→回想への切り替わり方とかちょっとしたシーンの演出でいいなあと思うところも結構あって、好きな作品です。