嗚呼建物疎開『歓呼の町』

監督:木下惠介
出演:上原謙、水戸光子、東野英治郎、信千代 他

戦時下、事情があって住み慣れた下町を離れられない家族たちの3日間を淡々と描いた作品なんですが、実は疎開の促進を図るための国策映画。
国策と言ってもいろいろあったんですね。

試験飛行士をしている上原謙の家族と、その上原謙と結婚したい水戸光子の家族、近所に住む風呂屋の夫婦(小堀誠、飯田蝶子)、印刷屋を営む日守新一の家族。この4組がそれぞれちょっとした事情を抱えいていて、なかなか疎開に踏み切れない。
そして近頃、その界隈をフラフラ歩く怪しい男…

上原謙のオカン・信千代(赤木蘭子)は出てったっきりの夫を待ち続けて10年。息子に疎開をすすめられても、お父さんが帰って来た時に困るだろうからという理由でこの場を動けない。
上原謙は水戸光子と結婚しようと思っていて、水戸光子の父親との関係は良好なんだけど、母親の方にはよく思われていない様子。試験飛行士という死と隣り合わせの仕事をしてるんで、娘の結婚相手と思うとやっぱりいい気はしないのです。

風呂屋の頑固親父は娘婿(安倍徹!)に何度も「ここを離れて僕たちと一緒に住みましょう!」と説得されても、客が一人でもいるうちは風呂屋をやめん!とかなんとか言ってちっとも聞く耳持たない。
安倍徹、若いし丸眼鏡だしで最初誰だかわかんなかった…どっかで見たことあるしどっかで聞いた声だなあ…と思いながら観ていてアップになってようやく安倍徹とわかった。義理父にないがしろにされてめんどくさそうな顔がかわいい。笑

もうじき3人目が生まれるので疎開どころではない印刷屋の日守新一は穏やかな表情と口調が癒し系。上原謙に生まれてくる子どもの名前つけてよ〜、と頼んでいる。
日守新一の次男やってる子、もしかして『破れ太鼓』で四男坊をやってた子ですか?顔がよく似てるような気がするんですが違うかな…

で、近頃やたらとうろついてたのは東野英治郎でした。ついに家族の元へ帰ってきた!しかしその日、上原謙は試験飛行へ出かけてしまう。父親には会わないまま、戻ってきたことも知らずに。

そして…

 

最後は結構強引な感じで皆めでたく疎開していく運びとなり、日守新一が仇を取るために飛行機工場で働く」なんて言ってて、作った映画を世に出すために、当時はこんなセリフをいちいち入れないといけなかったんだなぁ。

上原謙は水戸光子を諭すために国に対する礼儀がなんちゃらかんちゃら…自分の気持は二の次でなんでもかんでもそっちへいっちゃうのがね。この頃の映画の…そういう時代なのだからという理解はできても、納得はできないという(笑)モヤモヤが残ってしょうがないよ。
「うちのおふくろは親父を10年も待ってるんだから、キミもそのくらいの気持ちで10年でも15年でも待っていてよ」とか、頼もしいようで女性側からしたらかなり酷なセリフも飛び出す。よほどお花畑じゃなきゃ「うん」とは言えんぞ。

信千代が見栄ばっか張る東野英治郎にガッカリした瞬間、ふたりの間に割って入る大きな水たまりにグッときた。
水戸光子が好きだと言っていた詩を空を見上げながら読む上原謙、水戸光子の両親が娘の結婚をめぐって口論になるシーンもよかったなぁ。

人々の表情やちょっとしたセリフに、戦争に対するやるせなさも滲む。
戦中の木下作品はただの戦意高揚にならないところが、いいなぁと思うのです。