「張り込み」2001年 日本

サスペンス
2001年
監督:篠原哲雄
出演:若林しほ、小市慢太郎、堺雅人

ある日突然、『張り込みをしたいので部屋に入れて欲しい』と訪ねてきた刑事の吉岡。
住人のスミレは不審に思いながらも吉岡を部屋に入れるが…

この吉岡という男、ただの刑事ではなかった!

ほぼ団地の一室のみで繰り広げられる密室劇。その中に居るのはたった二人。
そして撮影はたった5日間だったらしい。低予算万歳。

小市慢太郎氏の笑顔の破壊力

何も知らずに観たら監督が篠原哲雄だとは誰も思わないと思う。
かなりマニアックな内容で万人受けはしなさそうだ…だけどサスペンスとしては最上級の仕上がりではないかと。

自殺の名所として知られる団地に住むスミレは五つ子ちゃんでおなじみの若林しほ。『高校教師』で教生の役やってた頃とはだいぶ雰囲気が変わったね。
そんな若林しほの住む部屋にいきなり上がり込む自称刑事の吉岡は小市慢太郎。ヒゲボーボーで見るからに怪しい。

吉岡は団地の向かいの部屋の張り込みをするために、いかにも人が良さそうな笑顔でスミレの部屋に上がり込む。
この人の良さそうな笑顔がまた不気味で怖い。小市さんは好きだけどこの笑顔で来られたらいくら張り込みだと言われてもお断りしたい。

ところがその人の良さそうな雰囲気はどこへやら、部屋に上がり込んだ途端図々しさを見せつける吉岡。
草履貸せ椅子を貸せ、勝手に人んちのビール飲むわベランダでゴルフのスイングの練習するわ、女物の下着しか干してないのを見て「ほんとに旦那さんいるんですかぁ?」とか言いながらニヤニヤしたりとやりたい放題。しかも張り込みをしてそうな雰囲気は全くない。
何をしに来たのかよくわからない吉岡に、スミレは次第に不安を抱き追い込まれていく。

今やすっかりおなじみになった堺雅人はスミレさんの元恋人・荒川役で出演。
若い!まだ朝ドラに出てた頃だよね。年上の人妻に好かれそうな雰囲気ムンムンである。
荒川は英会話教材のセールスでスミレの家に来たわけですが、スミレも人妻キラーなそのオーラにやられてしまった。

ちなみにこの映画の面白いところは、過去をカラーで描き現在をモノクロで描くという手法。
なので小市さんはモノクロのちょっとザラついた画面でしか見れませんが、堺さんは「過去」なのでキレイなカラー映像でお楽しみいただけます。出番は少ないけどね。

スミレは荒川の子どもを妊娠するが、荒川には同じく妊娠している妻(実は妻ではなく、スミレと同時期に孕ませていた人妻だったんだけど)が居る事が発覚。
スミレとは結局分かれる事になるが、ショックを受けたスミレは荒川を自殺と見せかけて殺してしまう。
これは「現在」から1年前の話。

張り込みそっちのけでスミレに荒川のことをしつこく聞く吉川。
過去を暴かれ、スミレは更に追い詰められていく。

どうしてこの男が荒川のことを知っているのか。
どうして自分に荒川のことを聞いてくるのか。

吉岡…小市さんの顔がまた怖いんだよ。
同じニコニコ笑顔でも普通に可愛い時と「うへへへ」みたいな薄気味悪い時とあって、無表情になると何考えてんだかさっぱりわかんないしこの人の顔は凄いぞ。
夜中うなされてるスミレをビデオカメラで撮ってる姿はいきなりホラー映画に切り替わったのかと思った。怖い怖い。

翌日になり、スミレはちょっとした隙に吉岡をベランダへ締め出し警察へ電話をかける。
そして、吉岡が刑事ではない事を知る。恐怖!

更にベランダに締め出したはずの吉岡が「財布忘れましたよぉ(うへへ)」とか言いながら団地の外に現れた。怖いよ!
そして執拗に荒川の話を続ける吉岡。スミレはもう限界です。怖がり方が尋常じゃない。

吉岡は1年前の荒川殺人事件の時、警察の鑑識係で現場を訪れていたのだ(一応刑事だったのは本当だった…)
そこで野次馬として来ていたスミレの顔を見て、直感で「これは自殺じゃない。この女は絶対事件に関わっている」と気付く。

そして、その時のスミレの顔に一目惚れしてしまったわけです。
女が一瞬見せた狂気の顔みたいなものに惚れてしまったって感じなのかね。

 

吉岡はスミレを縛り付けるが、ところがそこから先は何もできません。
あらっ?どうして縛ったの?

おそらく、スミレは吉岡によって追い詰められたが、吉岡はスミレに近づいてしまったがために自分で自分を知らない間に追い込んでしまっていた…んじゃないかな?と。
警察をクビになり、家族もいない、死んでも悲しんでくれる人もいない。

荒川は死んだけどスミレに忘れ去られることはないのでうらやましいと。

うーん、歪んでるな。

終盤、二人して追い込まれて狂気染みてるあの雰囲気はなかなかちょっと、凄いとしか…
表現のしようがないです。

吉岡は結局何がしたかったのか。
ゴルフクラブをブンブン振り回しながら「さて、僕の本当の目的は次のうちどうれでしょう」
いきなりクイズが始まったぞ。

荒川事件の犯人として、スミレを逮捕したいのか。
欲望にまかせてスミレを襲いたいのか。
スミレが餓死するまでビデオで撮影したいのか…

そして、少し間を空けてつぶやく。
「よん。…そのどれでもない」

吉岡も自分で自分が何をしたいのかわからなかった。
普通に考えたらね、縛るところまでいったら「YOU、欲望にまかせちゃいなよ」とかってなるんだろうけど、そうはしなかった。

来るところまで来て何も出来ず、吉岡の力が抜けてしまった隙を見てスミレはゴルフクラブで吉岡の頭を殴りつける!
計3回くらい頭を殴られてる吉岡ですが、その度にムクリと顔を上げる様子はバイオハザードのゾンビも逃げ出しそうな恐怖映像だったね。
でもなんだか幸せそうな顔をしている…これでスミレの記憶から自分が消えてしまうことはないのだ。

結局吉岡の正体は、ジワジワと好きな人を追い詰めた挙句「あなたに殺されれば本望です」というただの変態ストーカーでした。
と、言ってしまえばもうそれまでなんだけど。

これはもう、吉岡=小市さんの表情技に尽きるものなので観ていただいた方が早いんだけど…
スミレに対する憎悪とか愛情とかが渦巻いちゃって自分でもどうしようもないんだっていう感情が溢れ出ててまあとにかく凄かったとしか言い様がない。

ストーカーとしての狂気の中に、プラトニックな愛情や哀れみのようなものがあったりして…
理解し難い、でも何だかわかるような気もするんだよ。そうゆう不思議な男だったし、ここまで演じた小市さんが天才だしまず小市さんをキャスティングした人が素晴らしい。
なにげに吉岡と荒川を正反対の男として描いているよね?そう思って観るとまた面白いんだ。

念のために書きますが、普段はニコニコ優しい笑顔で可愛らしい人ですよ。普段は、って…別に会ったことがあるわけじゃないけど。
なんだかぬくぬくとした雰囲気で包容力ありそうで癒されるんだなあ、小市さん。

若林しほは団地がよく似合ってました。団地妻顔かな?

見終わってしばらく…
いや、おそらくずっと、若林しほの悲鳴と怯える顔と、小市さんの不敵な笑みが頭の中に残り続けることでしょう。

観てもらった方が早いって書いちゃったけどこれはDVD探し出すまでに時間かかりそう。今はレンタルでも見当たらないし、ディスクは廃盤で価格が高騰しています。

良い映画なのに勿体ないよね。再販希望。