「張込み」1958年 日本

サスペンス
1958年
監督:野村芳太郎
出演:大木実、宮口精二、田村高廣、高峰秀子 他

質屋殺しの犯人・田村高廣を逮捕するために東京から佐賀へ乗り込んだふたりの刑事は、田村高廣の元恋人・高峰秀子を宿から張込む。
高峰秀子はごく平凡な主婦のように見えたが…

ひとりの刑事の、人間としての成長

橋本忍が亡くなる少し前に、CS放送で特集が組まれていて、その時録画したものを視聴しました。タイトルからしてバリバリの刑事物かアクションものか?って感じがしますが、そうじゃないんですね。
張込む刑事は二人。ベテラン宮口精二と、若手の大木実。宮口精二の、細い身体と猫背から滲み出る渋さがね、いいんですよ〜。宮口精二好きなんだよなあ。

新幹線もない時代。鈍行で東京から佐賀まで移動する。安月給だから寝台列車にも乗れない。季節は真夏だが列車には当然クーラーなんてない。ぎゅうぎゅう詰めの列車の通路に座り込み、上着を脱ぎ、汗だくで首からタオルをかけてうちわで扇ぐ。
真夏のギラギラした暑さが観てるこちらにまで伝わってくる。この時期に見るにはある意味ピッタリでした。

張込むために泊まる宿の女将は浦辺粂子!粂子はいつも可愛いね。宿代を一生懸命値切る宮口精二(笑)障子の隙間から、ふたりで高峰秀子を張込む。

「さあ、張込みだ!」

ここまで10分くらいかかってるんだけど、ここでやっとジャジャンッとオープニングタイトルです。このワクワク感イイネ!当時の映画としては、こうゆう始まり方はまだ珍しいんじゃないかと思います。

高峰秀子は3人の子持ちと再婚し、子どもたちとはそれなりにうまくいってるようだけど旦那はクソえらそうで、いつもキツいこと言われながらじっと耐えている。デコちゃんあんまり幸せそうじゃないっす。更に大木実と宮口精二には「年齢より老けて見えるなあ」とか言われて散々である。話の設定では20代後半だけどデコちゃんこの時もう30過ぎてますからね。でも、ちょっとくたびれた感じ出すにはちょうどいい。

張込みながら、デコちゃんの生活に同情していく大木実。途中、大木実はデコちゃんに惚れてどうかなってくんじゃないか?とか考えちゃったけどそうゆう話ではありませんでした。←すぐこうゆうこと考えちゃうのが私の悪い癖

張込みは我慢と忍耐の作業。目標が動かなければ、こちらも動けない。暑さに耐えつつ宿でダラダラ。粂子たちには自分たちが刑事であることは言ってないので、怪しまれ、しまいには犯罪者ではないかと疑われる。
逆に目標が動いた時の緊張感は最高!ダラダラ動かない時と動いた時のバタバタと、メリハリがあってイイ!そんなバレバレな尾行で大丈夫ですか?と突っ込みたくなるものの、デコちゃんにはバレてないのでおっけーです。

デコちゃんのところに田村高廣は来ない。彼女は今は平凡なひとりの主婦なんだ…ってことで引き上げようとしたところで一気に動きが出る。ここから先の、大木実の焦燥感溢れる演技も素晴らしい。

時折、事件とは関係ない大木実の日常のエピソードが挟まってくるんだけども、彼は彼で、人生というか…彼女のこと、結婚のことで思い悩むひとりの青年。そんな彼が、ただ耐えるだけの生活を送るデコちゃんに同情し、そして田村高廣に自分の激しい感情をぶつけるその姿を見て、心を動かされていく。

大木実はデコちゃんの生活を壊さないために、精一杯の配慮をする。かっこいい。デコちゃんの、全てさらけ出したような号泣も凄かった…家を捨てて一緒に行く!って決めた直後に逮捕だもんなあ。そりゃもう、どこに気持ちぶつけていいんだかわかんないよね…

この映画のテーマは、刑事物で犯人を捕まえることではなかった。張込みという刑事としての仕事と、「目標」という名の人間を通して成長する、ひとりの男の話だったのです。

最後、駅のホームで鈍行列車の停車駅のアナウンスが流れる。
東京から佐賀まで、気の遠くなるような数の駅を通過して、また東京へ帰って行く。ああ、これでこの事件は終わるんだ、この物語は終わるんだ、また同じ道のりを戻って行くんだ……っていう、なんとも感慨深い気持ちになりました。切符買うついでに大木実が書く電報も良いよね。これからうまくいって欲しいなって、映画はここで終わっちゃうけど、頑張れよ!って応援したくなる。
このラストの演出は本当に素晴らしいと思って。

スタッフクレジットは一番最後。これもオープニングタイトル同様、この頃では珍しいですね。
ここでデコちゃんのあのケチでキツい旦那が清水将夫だったことが判明(笑)全然気付かなかった…「朝から入れとかんば朝からー!」とか言ってたのは清水将夫だったのか…

ということで、もっかい見直しました。そういや顔はほとんど映ってないもんな。声だけだと意外にわからんもんですな。