笠智衆の背負投げ『午前零時の出獄』

1950年
監督:小石栄一
出演:岡田英次、久我美子、宇野重吉、菅井一郎、根上淳 他

岡田英次が入ってる刑務所にいる刑事が笠智衆なんですが、あのごつくて重そうな岡田英次を軽々投げ飛ばしまくるので笑ってしまった。笠智衆本人は柔道強いんですよね。

なんで岡田英次は笠智衆に投げ飛ばされてたかというと、自分の出所日を伸ばすために問題を起こそうと暴れて、他の受刑者たちと喧嘩してたという。
岡田英次は兄貴分を誤って殺してしまったので(あんな軽い音のパンチで死ぬのかい?というツッコミはしない)ヤクザ界の掟でね、出所して仲間たちに殺されるのを恐れていて「ここから出たくない」と。

ちょうどそこへ居合わせた正義の新聞記者が似合う男・宇野重は岡田英次をなんとか助けてやろうと奮闘する。ヤクザの目を盗んで、ある場所に匿おうと。
そのために「午前零時」という、普通ならあり得ない時間に出所することになる。

追っかけてくるヤクザをギリギリ撒いて幼馴染の久我ちゃんの家に身を寄せます。
会いたくないとか言いながら久我ちゃんがお出迎えに来た途端ニコニコになる岡田英次ですが、嬉しい再会もつかの間であっという間にヤクザに嗅ぎ付けられる。

もちろん岡田英次の方は久我ちゃんを巻き込むつもりはないのですが、久我ちゃんはさっさと荷物をまとめ、結局二人で逃げることに…

そういうことで主役は岡田英次なんだけども、これはとにかく新聞社の面々がかっこよくて最高なのです。飄々と正義の味方をする宇野重はもちろんのこと、菅井一郎が部下に優しく頼れる上司してて最高。
そして根上淳が可愛くて最高!踊るシーンはサービスショットですか?踊ってる間ずっと最高じゃない?彼は49年デビューなので、まだ映画に出始めて間もない頃ですね。

そんな彼らが、記者によくありそうな汚い思惑は一切無しに、正義のためスクープを取るため黙々と仕事をしている姿がかっこいいんです。
菅井一郎、いかにも裏で何か企んでそうな顔じゃないですか。しかしこの菅井一郎はそんなことしないぞ。

結果的に他所の新聞社と同時に記事を出すことになってしまい仕事としては失敗なんだけど、悔しがる宇野重に菅井一郎「人間ひとり助けたんじゃないか(キリッ」それを聞いた宇野重「それはもちろん喜んでますよ(キラッ」
なにこのかっこいい人たち…

主役の岡田英次は逃げ出してからラストまでこれといった見せ場がないものの、顔良し声良しですから見ているだけで眼も耳もホクホク。
岡田英次は完全に横向く直前の角度がとても良いよねぇ…って思ってたら久我ちゃん抱きしめてる時のうつむき加減ショットが素晴らしすぎて息の根が止まるかと思いました。
何の柄だかよくわからない派手なシャツも難なく着こなす。男前は何着ても男前という良い例です。

最後はあれだけボコボコにされて普通なら死んでるんじゃないかと思いますが、そばにエンジェル久我ちゃんがついてるので生きる。久我ちゃんは先の見えない不安でどんどん表情が暗くなっていくけども、それでもあそこまで一緒に来て「ひとりで帰ってくれ」なんて言われてもね。「もうほっといてくれ」とか言われてね。そりゃ怒ります。

抱き合ってるシーンで久我ちゃんに喋らせちゃったのはちょっとガクッときた…喋んなくてもこっちはわかってるんだから。ああいうシーンは無言の方が美しいと思う。

岡田英次目当てだったので話の方はそんなに期待してなかったけど、一応逃走劇なのでスリルのある展開が続いてとても楽しく観れました。クレジットが『出演』ではなく『演ずる人々』となっているのは珍しいですね。

きれいなオルゴールの音色と不穏なBGMを同時に流してるシーンがあって、なんでこんなことしたんだろうって最初はモヤモヤしたんですが、その後やっぱりオルゴールに不穏BGMをかぶせてるシーンが出てきて、そこで初めて演出の意図がわかった。
展開に関わるような重要なことでもないんですが、岡田英次と久我ちゃんの心情、状況を音で表していたんだなと勝手に解釈。

ふたりが見つめあって交互にショットが切り替わるシーンが2回くらいあってしつこさを感じたものの、美男と美女なので問題ないということで良いですか…