「煙突の見える場所」 1953年 日本

ラブストーリー


1953年
監督:五所平之助
出演:上原謙、田中絹代、高峰秀子、芥川比呂志、関千恵子、花井蘭子 他
場所や角度によって1本にも4本にも見える通称「お化け煙突」
その界隈で暮らす上原謙・田中絹代夫妻。

ふたりは裕福ではなくともそれなりに幸せに暮らしていたが、ある日突然、部屋に赤ん坊を置き去りにされ…

違って見えるのは煙突だけじゃない

せっかく良い映画なのに、もうちょっと音声が良かったらなあ…セリフが聞き取りづらいんです。特に後半は音がこもっててかなり苦しい。

「お化け煙突」っていうのは、かつて東京の北千住に実際に存在していた煙突のこと。
その周辺に暮らす上原謙・田中絹代夫妻と、同じ家の2階に下宿している高峰秀子と芥川比呂志が話の中心。
高峰秀子は放送局にお勤め。芥川比呂志はお役所勤めで頭カチカチの真面目男。

脇も濃キャラ揃いで、その家の大家さんで怪しい宗教(法華経?)やってる梅干しホッケババア三好栄子、デコちゃんの同僚にあっけらかん関千恵子。浦辺粂子は絹代のお友だちなどなど。粂子相変わらず可愛いぞ。

絹代は戦争未亡人で、上原謙とは再婚。絹代の未亡人感というかいかにも再婚ぽいというか、薄幸そうというか(絹代はたいてい何を観ても薄幸そうだけど)。どことなくくたびれてて影のある感じ。だからこそ嬉しそうにしてたりする表情が可愛いんだけど。
裕福じゃなくて子どもを作る余裕もないけど夫婦仲はまあ良いようで、それなりに幸せそうです。

夫婦がいちゃいちゃしてるところを目撃してあからさまに嫌な顔をするデコちゃん。もしや上原謙に片想い…?と何故か一瞬考えてしまったがそうではなくて、一緒に下宿してる芥川比呂志とも恋仲ではない。
が、比呂志の方はデコちゃんに片想いしてて、部屋に堅物らしい張り紙なんかしちゃって可愛い。このふたりのやりとりがすごく可愛いんですよ。じゃんけん可愛い。芥川比呂志可愛い。

そんな4人の暮らしは、ある日突然赤ん坊が上原謙・絹代夫婦の部屋に置き去りにされたことで一変。更に、絹代の元夫はまだ生きていて、しかも二重婚状態になっていることが判明。
赤ん坊は終始泣き止まないわ、上原謙に罵られるわで放心状態になった絹代はフラフラと入水自殺を図るが…

妻が眼の前で入水自殺しようとしてんのに「どうやって止めるんですか?」とオロオロするだけの上原謙。どうやって止めるんですか?じゃねえよ!おまえも川に入って止めろよ。
その後も「気まずい」とか言いながら赤ん坊の面倒も見ずにパチンコ三昧。情けない上原謙に代わって、赤ん坊を置き去りにした男=絹代の元夫探しに奔走する比呂志。

しかしそう簡単には見つからず、バカバカしくなってヤル気を失くす。が、いつもは冷静でそっけないデコちゃんに励まされてあっという間にヤル気復活。笑
比呂志単純で可愛い。

そんなことをしてる間に赤ん坊は病気になり、しかもほとんど手遅れ状態で医者にも匙を投げられる。そこへ赤ん坊の生みの親である花井蘭子が乱入し…

トボトボ歩く花井蘭子の後を追って、自分も裸足で歩き始める関千恵子に私は惚れました。あっけらかんとしたまんま、全然わざとらしくないだよ。それがすごく素敵なんです。
そして赤ん坊のためにドンドコ祈祷する梅干しホッケババア三好栄子も最高。

上原謙は良い旦那と思いきや自分勝手で情けないサイテー男っぷりをかましてくれて。もう期待どおり。笑
だけどサイテーになりきれない…妻を罵りながらもやっぱりほっとけなくて気遣いしてみせたり、赤ん坊を見捨てようとしながらもやっぱり気にしてすぐ戻ってきちゃったり…

この話には、根っからの悪人が出てこない。みんな弱かったり情けなかったり癖が強かったりするんだけど、みんな優しい気持ちを持ってる。
だから観終わった後、心がじんわり暖かくなって幸せな気持ちになれるんだね。

物語の途中でも、煙突は3本に見えたり1本に見えたりしている。
場所や角度によって見え方が違うのは煙突だけではない。人間も、見る人が違えば印象も違うし、真実もたったひとつではないんだよね。
しかしあの戸籍はきちんとしておいた方がいいぞ。

お化け煙突と人間模様をうまいこと掛けた秀作だと思います。
上原謙が火鉢の縁に脚乗っけてるの可愛かったです。