冬の網走大逃避行劇『愛と憎しみの彼方へ』

1951年
監督:谷口千吉
出演:三船敏郎、池部良、水戸光子、志村喬、小沢栄、木村功 他

妻の水戸光子と息子を残し服役中の三船敏郎は出所を目指して模範的な生活を送っていた。ところが獄中仲間の木村功から「お前の嫁、男が出来たんだってな」と囁かれ、真相を確かめるために小沢栄と共に脱走してしまう。

三船を可愛がっていた看守の志村喬は、彼を信じて追いかけるが…

 

当時の映画雑誌にすごく楽しそうな北海道ロケスナップが載っていて、これ観たいなあって思ってたんです。
この作品は黒澤明と谷口千吉の共同脚本ということで、この度黒澤明コレクションからDVDが発売されまして嬉しい限り。

で、観てみたら楽しそうなロケスナップからは想像もつかない暗い話で(笑)クソ寒い冬の網走でほぼオールロケ、三船敏郎と池部良と水戸光子は山の中を薄着でひたすら走り回るという壮絶な逃避行劇でした。
これ水戸さんと子役くんはめちゃくちゃ大変だったのでは…体壊さなくてよかったよね。

三船と水戸光子夫妻の面会の様子も見守ってきた志村喬は、水戸さんに男ができたことも信じたくないし三船のことも信じたい。それで周りの警官とも衝突してなかなかうまくいかないんだけど、やっぱり警官は人を疑い追いかけ捕まえるのが仕事なわけで、志村喬とは全然違う立場なんだからそこの違いはしょうがないよね。

水戸光子に男ができたというのも残念ながらほんとの話で、その男が町医者の池部良である。

三船の脱走を知った水戸光子は池部さんと一緒に子どもを連れ、三船と知り合った思い出の場所に向かう。
ここなら彼もやってくるはずである、と。

水戸光子が男と逃げたことを知った三船も考えることは同じで、やはり同じ場所へ向かう。しかし問題は水戸光子と一緒にいる池部さんです。池部さんが一緒だったばっかりに、三船は鉄砲片手に追いかけるハメになるし、池部さんと水戸光子は三船から逃げ回るハメになる。

水戸光子が一人で来てりゃ、こんなことにならんで済んだんですよ。
三船と会うこと前提なら、なんで池部さんと一緒に来たの?って話よ。

これって、まあ最終的に一番悪いのは栄太郎なんだけども(クズっぷりがいつもの如く清々しいw)
しかし元はと言えば水戸光子ですよ、やっぱり。

なんだか池部さんとの関係もハッキリしなくてね。意図的にそうしたのかもしれないけど、不倫なのか不倫未満なのかもよくわかんない感じで、一緒に逃げてるけど結局何がしたいのかわかんない。三船と話がしたいのか、したくないのか。三船と別れたいのか、池部さんとくっつきたいのか。いつまでも池部さんと逃げると言ったり、先に逃げてくれと言ったり…何がしたいんだよおまえは!
あんな寒い中子ども連れて逃げ回って、そりゃ子どもも肺炎になりますよ。

池部さんももらい事故っつーか、撃たれるわ極寒の中水戸光子と子どもを担いで池に沈むわ、命がけ。
もう水戸光子のことはいいから一人で逃げてくれよ、って思っちゃったよ…

夫であり主役の三船は終始蚊帳の外状態で切ない。子どもの看病してる時の所在なげな様子といったらもう。
子どものために何かしてやりたいけど、二人の中に入る隙間もないんだ。話をする前に「俺はもうダメだ…」ってわかっちゃう。
この作品は三船のそういう、どうしていいかわからないような、複雑な表情から本人の悲痛な心情がこちらにグイグイ伝わってくるんですね。そこがすごく良かった。
三船は繊細な役が上手いなって思うし、そういう三船が私も好きです。

 

池部さんが結構長いこと池にブクブク沈んだまま歩くシーンがあって「ちょっと大丈夫なのこれ」って本気で心配になったんだけど、後で冊子を読んだら沈んでしまったのはトラブルだったそうで、それがそのまま使われたとのことでビックリ。あの池はセットだけど撮影の時は高熱も出していたそうで、池部さんガチの命がけだった…